ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力

ネガティブ・ケイパビリティ
答えの出ない事態に耐える力

精神科医の方が書かれた、
「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」についての本です。

私は、ホームレス支援に関わる彼からこの本を教えてもらいました。すぐには解決できない問題とどう向き合うか、解決できないことの方が多い世の中で、どう生きていくか。耐える力は、すぐに答えを求めようとする私たちに大切なことを教えてくれている気がします。
ハウツーではなく本質に目を向けることは、ここちめいどでも学ばさせていただいております(兼松明日香)

ネガティブ・ケイパビリティーという言葉を知っていますか?「答えが出ないことを耐え抜く力」を意味します。 この言葉はイギリス・ロマン主義の詩人ジョン・キーツが初めて書き記した概念といわれています。その後、イギリスの精神科医ウィルフレッド・R・ビオンによって、精神医学の分野でも使われるようになりました。 (中略)答えが見えない苦しい状況を耐え抜く力。 ネガティブ・ケイパビリティーは現代社会に生きる私たちがいまこそ必要な能力ではないでしょうか。白黒付けるのではなく、グレーを許す。完璧主義にならないというのも、必要な能力だと感じます。

p8. 目の前にわけのわからないもの、不可思議なもの、嫌なものが放置されていると、脳は落ち着かず、及び腰になります。なんとか「わかろう」とします。世の中でノウハウもの、ハウツーものが歓迎されるのはそのためです。
人の脳が悩まなくても済むように、マニュアルは考案されていると言えます。

p.10 私たちが、いつも念頭において、必死で求めているのは、言うなればポジティブケイパビリティです。しかし、この能力ではえてして表層の「問題」のみをとらえて、深層にある本当の問題は浮上せず、取り逃がしてしまいます。

p.38 精神分析に限らず、人と人との出会いによって悩みを軽減していく精神療法の場において、ネガティブケイパビリティは必須の要素だと考えたp.78 教育とは、問題を早急に解決する能力の開発だと信じられ、実行されてきた。p.82  精神科医は異常な精神状態の対処法に慣れていても、正常な精神状態の扱い方など知りません。正常なものは、放置しておけばすむからです。
また、正常な精神状態というのが、非常に多種多様、十人十色なので精神科医が戸惑う。100人いれば100通りの正常状態があります。病的なものは幅が決まっていて、100人の患者がいて、10通りぐらいに種類分けができます。もちろんこのとき、各人の細かい個人的な差は捨象されます。枝葉を切り取った上で、分類するからです。p.105 分かりたがる脳 わかるために欠かせないのは、意味付けです。意味がわからないままでは、心は落ち着きません。だからこそ、人は不可解なものを突きつけられると、何とか意味付けしようとします。

p.107 明るい未来を思う機構
1)記憶の場である海馬。海馬を損傷すると、ひとはもう記憶を喚起できないのと同じく、未来を思い描く事もできなくなります。
2)前頭前野皮質と皮質下の神経連絡網も関与している。
3)線条体の尾状格

p.122 医師は首をかしげて「わからない」というよりも、まがりなりにも診断名を告げたほうが改善率がいいのです。
プラセボの投与は単なる暗示ではなく、脳内麻薬物質であるエンドルフィンを分泌させる力がある事実が判明した。

p.134 2009年には、米国で慢性腰痛の患者638例に対して、通常の薬物療法と正式な鍼治療と疑似鍼治療の比較が行われました。いわゆるプラセボのシャム鍼治療では、鍼ガイドチューブに爪楊枝をいれ、皮膚には刺さず、経穴(つぼ)を軽く叩いたり、ひねったりしたのです。
7週間治療したあと、8週目に調べると、効果は本物の鍼治療と疑似治療で変わらず、この2つとも通常の薬物療法よりも改善率が高かったのです。この実験から、

「長期の薬物療法では副作用が懸念されるので、途中で経穴刺激を行う種々の治療法に切り替えるのは合理的な選択である」という結果がもたらされました。

p.136 治療という「儀式」が治療上、強力な力を持つのです。

この他の抗うつ薬とプラセボの比較研究から、うつ病の軽症から中等症については、抗うつ薬の効果はほとんどなく、副作用を考慮すると、プラセボのほうがいいのだと結論されています。

p.200 今の時代は、こうすれば苦労なしで、簡単に、お手軽に解決しますよ!のほうが受けるのです。でも、お手軽な解決ばかり求めてしまうと、何かが欠落していきますし、結局は行き詰まってしまいます。なぜならば、「世の中にはすぐに解決できない問題のほうが多い」からです。(米倉まな)